「みなし労働時間制」という制度があります。「みなし」なんて言われると、なんだか「まやかし」にあったような気がしますが、労働基準法の改正によって定められた制度です。
「みなし労働時間」とは労働時間の管理が困難な業務、一日の労働時間として管理することが適切ではないという業務に関して、所定労働時間労働したと「みなす」という事です。曖昧な表現のようですが、それだけに、この制度の適用には細かい基準が定められています。
みなし労働時間制には大きく分けて事業場外労働と、裁量労働の2つのケースがあります。裁量労働はさらに専門業務型と、企画業務型に分けられます。
(1) 事業場外労働
労働時間の一部または全部において、事業場外で業務に従事するため、時間算定が困難である場合です。具体的には営業職などが挙げられます。ただし、事業場外であっても、使用者の管理・監督下にある場合は適用されません。
制度の実施にあたっては次の項目を記載している労使協定の締結が必要になります。
① 対象となる業務の種類
② 制度に該当する従業員数
③ 1日の所定労働時間
④ 労使協定で定める対象業務の労働時間
⑤ 労使協定の有効期間
労使協定で定め、対象となる業務の労働時間が法定労働時間内であれば、
労働基準監督署への届け出は必要ありませんが、法定労働時間を超える場合は
届け出が必要です。
(2) 専門業務型裁量労働
業務の性質上、その遂行にあたっては業務に従事する者の裁量に大きくゆだねる必要があるため、具体的な手段、時間配分などの決定が困難である場合です。
制度の採用にあたっては次の項目を記載している労使協定の締結が必要です。
① 対象業務
② 労働時間として算定される時間(みなし労働時間)
③ 対象業務の遂行の手段及び時間配分の決定などについて、その対象業務に従事する労働者に対して使用者が具体的な指示をしないこと
④ 対象業務に従事する従業員の労働時間の状況に応じた健康・福祉を確保するための措置
⑤ 苦情の処理に関する措置
⑥ 協定の有効期間
⑦ 従業員ごとに講じた1④及び2⑤の記録を、協定の有効期間及びその期間満了後3年間保存すること
協定は労働基準監督署への届け出、及び就業規則に盛り込む事が必要です。
(3) 企画業務型裁量労働制
① 事業運営上の重要な決定が行われる事業場であること
② 事業の運営に関する企画・立案・調査・分析の業務であること
この条件のもと、業務の性質上その遂行方法を労働者の裁量に大幅にゆだねる必要があるために対象業務を適切に遂行するための知識、経験等を有する労働者を就かせる場合に適用されます。業務遂行の手段、時間配分の決定等に関して使用者が具体的指示をしない業務として定められます。
制度の採用にあたっては専門業務裁量労働の導入よ厳格なものになっています。
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このような「みなし労働時間制」において残業などはどのように取り扱われるのでしょうか?
労働者は、たとえ、この制度が導入されても基本的には労働基準法の下にあります。
みなし労働制の場合、労働時間は基本的に「みなした」時間に含まれます。所定労働時間が160時間/月の会社で、みなし時間が180時間だとすれば、残業20時間分はすでにみなされた時間に含まれるわけですから、残業手当は付きません。しかし、みなした時間(この場合180時間)以上労働した場合は、当然、残業代は支払われなくてはいけませんし、それは36協定で定める協定時間の範囲内でなければいけません。
また、会社との契約にない休日や深夜に労働した場合においても同様です。休日・深夜労働の割増賃金は追加で受け取る事ができます。
使用者は、「みなし労働制」を適用している労働者に対しても、監督責任があり、労働時間の管理はしておかなければいけません。
「時間外労働の限度に関する基準」が改正され、労使当事者は限度時間を 超える時間外労働に対する割増賃金率を引上げる努力をするように表記されています。
月60時間を超える法定時間外労働に対して、使用者は50%以上の率で
計算した割増賃金を支払わなければなりません。
引上げ分の割増賃金の代わりに有給の休暇を付与する制度(代替休暇)を 設けることができます。
労使協定により年次有給休暇を時間単位で付与することができるようになります。